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神戸地方裁判所 昭和32年(ワ)1139号 判決 1959年10月06日

原告 ジエー・シー・アーリー

被告 シー・エム・サホウスキー

主文

被告は原告に対し山葉ピアノ一台(第一〇〇号モデル番号第五五七五四号)を引渡せ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、請求の趣旨として、「被告は原告に対し山葉ピアノ一台(第一〇〇号モデル番号第五五七五四号)(以下単に本件ピアノという)を引渡せ。若し右ピアノの引渡につき強制執行不能のときは被告は原告に対し金一五〇、〇〇〇円を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は英国人であつて、神戸市生田区北野町三丁目八〇番地の一において妻ヘレン・アーリー(以下単にアーリー夫人という)及び子女二人の、四人で家庭生活を営んでいたが、アーリー夫人が転地療養のため故国オーストラリヤに帰郷することになり昭和三二年一〇月初頃子供二人を連れて神戸港を出帆した。ところが原告は昭和二八年一二月五日訴外日本楽器株式会社神戸支店から本件ピアノを代金一九五、〇〇〇円で買入れ所有し、右自宅に置いてあつたところ、妻子が出帆した直前である昭和三二年九月末頃右ピアノが何処かに運び去られていることに気付いたので調査したところ被告方に在ることが判明した。それで原告はその所有権に基き被告に対しこれが返還を求めるため本訴に及んだ、と述べ、立証として甲第一、二号証を提出し、証人平林真一の証言を援用し、乙第一号証中公証人の署名部分の成立を認めるが、その他は不知、同第二号証の一、第三号証の一中各郵便官署作成の部分の各成立を認め、その他は不知、同第二号証の二、第三号証の二はいずれも不知と述べた。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、本件ピアノは原告の法律上の妻であるアーリー夫人が自己の貯金で購入したものでその所有権はアーリー夫人にあるから原告の所有に属すとの主張は失当である。仮に原告の所有であるとしても、アーリー夫人はオーストラリヤに出帆するに当り、原告の同意の下にピアノを保管のため被告方に置いて行つたのであるから原告の請求には応じられない旨述べ、立証として乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証の一、二を提出し、原被告各本人尋問の結果を援用し、甲号各証の成立を認めた。

理由

原告とアーリー夫人が法律上の夫婦であることは当事者間に争がない。原告又はアーリー夫人のどちらかゞ昭和二八年一二月五日訴外日本楽器株式会社神戸支店から本件ピアノを代金一九五、〇〇〇円で購入したことは被告が明らかに争わないので自白したものと看做す。

それで右ピアノの所有権が夫婦のいずれにあるかについて考える。成立に争のない甲第一、二号証及び外国公証人が職務上作成したと認められるので真正に成立したと推定される乙第一号証及び原被告各本人尋問の結果を綜合すれば、本件ピアノを購入する半年程前原告とアーリー夫人間で子供にピアノを習わせたいということからピアノを買いたいという話があつたが、原告の月給だけで一家の生計を営んでいるので直ちに買うわけにいかなかつたこと、原告はその月給の中自分の小遣を除いて他は全部家計費としてアーリー夫人に手渡しており、アーリー夫人はそれを車の保険料、使用人の給料、被服費、学費その他生活費に当てゝいたこと、昭和二八年一二月五日アーリー夫人は原告に相談せずにピアノを注文したこと、アーリー夫人は右家計費を節約した貯金でその代金を分割支払つたこと、ピアノ注文書記載の注文者は原告になつていること、アーリー夫人は殆んどピアノをひく能力がないが、原告はかなりうまくひけるし、子供はピアノの先生について学んだことがあることを認めることができる。

さて、右の事実によつて本件ピアノが原告夫婦いずれの所有に属するかを判断することになるのであるが、夫婦間の財産の帰属(権原)とその使月権限の問題は夫婦財産制の準拠法によると解すべきであるから、法例第一五条によつて本件では婚姻当時の原告の本国法によるべきであるが、原告が英国人であることは被告が明らかに争わないので自白したものとみなすべく、特別の事情のない限り婚姻当時も又英国人であると認められるので、結局本件では右の点については英国法を適用すべきことゝなる。ところで英国法上この点について成文法はなく判例法に委ねられているのであるが、現行英国判例法をにわかに確定しがたいので、外国法不明の場合に該当するものとして、結局条理に従つて判断しなければならないことになる。そして条理によれば前記認定事実関係の下においては本件ピアノの所有権は原告にあると認めるのが相当であり、たゞ子供やアーリー夫人は原告の家族としてピアノを利用する権限を有するにすぎなかつたものと解する。もつともアーリー夫人が家計費を節約してなした貯金は同女に帰属するという特約が夫婦間にあつた旨の証拠もないではないが措信するに足らない。

さて、次にアーリー夫人が被告に本件ピアノの保管を依頼するにつき原告の同意があつたとの抗弁については全証拠を以てするも原告の同意を認めるに足らない。

そうすると原告が被告に対して所有権に基いて本件ピアノの引渡を求める請求は正当であるからこれを認容する。

更に原告は強制執行不能の場合の代償請求をしているけれども、その請求原因となるべき基礎事実の主張が充分でないのでこの請求は棄却を免れない。

なお仮執行の宣言についてはこれを付さないのを相当とし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 前田治一郎 富田善哉 松澤博夫)

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